研究概要 |
本研究の最終年度にあたり、演繹的な推論を用いた理科授業が子どもの科学的な概念形成に与える影響を明らかにし、演繹的推論に基づく習得型授業としての教授ストラテジーを示すことを目的とした。本研究における学術的な特色、独創的な点は、理科授業の推論過程の転換にある。これまでの理科教育学研究では、帰納的推論を前提として研究の成果が示されることが多かった。本研究はこの推論の過程を再構築し、それが子どもの学びにどのような影響を与えるのかについて組織的かつ具体的に検証することである。そこで、平成23年度は、これらの成果を3本の査読付論文として発表した。まず、演繹的推論を用いた授業を検証した研究として、「導入で一般法則を捉えさせることが、子どもの学びに与える影響」を臨床教科教育学会誌2011,第11巻,第2号に発表した。一般法則を捉えさせ、観察・実験を通して事例にあてはめる理科授業を小学校第4学年の子どもを対象に授業実践し、その有効性について検証を試みた。その結果「予想した根拠」を考え討議を行う局面において、学習者の科学的な思考の深まりを抽出することができた。同時に、本研究を深化させる過程で、子どもの科学的概念形成を教師と子どもの発話連鎖の構造に着目し検証する必要が示唆された。そこで、帰納的推論の授業についてエスノグラフィーの観点から授業の特色をとらえ直した。具体的には、IRF発話連鎖構造による分析を試みて、帰納的推論による授業の実態を明らかにした。これを日本理科教育学会『理科教育学研究』,Vol,52,No.2およびVol.52,No.3に発表した。小学校で理科を苦手とする教師、熟達した教師といった異なる立場の授業者を対象にして、帰納的推論を前提とした理科授業を分析することで、同推論に基づく教師の発話連鎖のデザインベースの特徴を検討した。
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