平成22年度の研究成果として作成した絵本リストである『絵本に描かれた子どもと家族~自分自身・親密な他者とのかかわりを描いた絵本100冊の紹介』を関係各位に配布したところ、秋田大学教授が講師を務める同大学附属小学校研究発表会において、リストに掲載された絵本を使用した家庭科の授業が公開され、児童の学びの深まりをみとることができた。また、東京学芸大学等の家庭科教育や保育学の研究者らが、リストを参考に絵本を購入し、保育学習や家庭科教育の授業に活用してくれている。さらに、本研究者が担当した神奈川県立総合教育センターにおける中・高家庭科教員対象の研修で家庭科における絵本の教材化についての演習を行い、生活経営や保育の分野で様々な絵本を活用する授業提案がまとめられた。この時講座にかかわった指導主事によって、神奈川県下の市町村における家庭科研修の場においても、本研究の成果について紹介された。 7月に開催された日本家庭科教育学会大会では、アメリカの多様な家族を描いた絵本の内容分析を報告し、その成果は雑誌『Gender & Sexuality』に投稿し、研究ノートとして掲載された。 このほか、次年度以降に行う授業研究の手がかりを得るために、平成22年度に収集した絵本の中から男女共同参画の家族生活を描いた絵本である『ママがおうちにかえってくる!』(ケイト・バンクス:文、トメク・ボガツキ:絵、講談社)を用いて、小学校第5学年と中学校第3学年の児童・生徒が絵本の内容についてどのように受け止めるかを質問紙により調査した。調査結果は11月の日本家庭科教育学会例会で発表するとともに、横浜国立大学教育人間科学部紀要に論文としてまとめ、児童・生徒の発達段階によって絵本に描かれた家族関係への共感性に差異がみられた点を指摘した。調査に続いて、小学校第5学年児童を対象として絵本の内容についてのディスカッションを行う授業を参与観察し、絵本を教材とする際に児童・生徒の生活現実が投影され、自分の家族や家庭生活を振り返る契機となる効果が認められた。
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