本研究は,中学校社会科地理的分野における地誌学習を中心に,地域のスケールに応じた学習内容を学習課題の発見,把握という視点から整理し,カリキュラム上の提案を行おうとするものである。地誌授業において,生徒が発見・把握すべき学習課題の内容構成を,特に「地域のスケール」を鍵概念として明らかにすることである。 ここで言う生徒が発見・把握すべき学習課題とは,小単元や一時間の授業を貫いて中核的に追究する問いという意味である。この学習課題は,生徒が自ら追究しようという意欲を持続させるものであると共に,内容教科である社会科・地歴科の性格ゆえ,教員によって計画的に配置されるべきものでもある。 世界地誌学習の場合は大陸規模の学習となり,日本地誌学習の場合は近畿や関東といった地方レベルのスケールで学習課題となる事象や概念を確定しようとするものであった。平成20年版中学校学習指導要領社会科地理的分野は,世界の地域構成,世界の諸地域,日本の地域構成,日本の諸地域,身近な地域とスケールを徐々にダウンさせながら学習するようにカリキュラムが構成されている。本研究では,特にスケール間の関係性を重視しながら,身近な地域を題材とした単元プランを開発した。 現代社会が確実性からリスク社会へと移行したと言われる中で,1つのスケールの地域が,他のスケールの地域の影響をどのように受けているのかということを地誌学習に組み込み,地域が形成されていく過程を,他の地域との関係性を捉える中で学習していくことの重要性を論じた。中学校社会科地理的分野が,世界地誌学習で州レベルの地域,日本地誌学習では地方レベルの地域を取り上げており,学習課題としてスケール間の関連性を意識させるものになっていない点を批判的に検討し,地誌学習における単元の学習課題はスケールの重層性を意識できるものを設定することの重要性を述べた。
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