香川大学教育学部附属高松小学校の第1学年2学級の児童を対象として実施された「求差」の授業(各3時間)について、事例研究を行った。「求差」は第1学年の夏休みまでに扱われる算数の中で、理解が困難な素材として知られている。求差を学習する前に求残を通して引き算の式表現が導入されるが、求差の問題場面には基本的には「取り去る」という意味は含まれていない。そのため児童は、求差の問題場面を引き算によって式表現できる理由が理解できないのである。ここで検討した2つの授業事例は、問題場面はほぼ同一であったが教具の用い方が若干異なっていた。1つの授業事例では、問題場面の具体的な意味を表現する方向で教具が用いられた。もう1つの事例では、問題場面の構造を表現する方向で教具が用いられた。本事例研究は、それら2つの方法の何れがより適切かを検討することが目的ではなく、教具を用いた問題場面の表現および操作活動の方法を開発することが主な目的であり、どの方法を用いるかは児童の既習事項の理解や表現力の様相にそくして選択する必要がある。言語力の育成は算数教育においても重要な課題であるが、小学校低学年の児童については、言語的表現だけではなく教具や具体物を用いた表現とそれに対する操作活動・操作的表現に十分留意した教材研究と授業方法の開発が必要である。式表現の意味理解およびそれを言語的に説明できる力の育成は算数教育の重要な課題であり、今後はここで取り上げた「求差」の事例研究をモデルの1つとしてさらに検討を加えたい。
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