研究概要 |
今年度はドイツ政治教育論における2大潮流の一つであるカテコリー教育論の主要論者,W.ヒリゲンの所論が現代ドイツ政治教育学の共通理解にどのように流れ込んでいるかを,理論書と教科書を分析することにより明らかにした。ヒリゲンのカテゴリー教育論では,まず,「人間の尊厳」と「社会的不平等の克服」オプチオーンが,学習対象種に応じて具体化される。そこから「危険とチャンス」の具体化としての状況把握カテゴリーが設定される。次に,その状況把握をふまえながら,例えば,「経済感覚-社会状況への依存」のような弁証法的相補関係が,チャンスをつかみとるための政治的行為カテゴリーとして定式化される。各学習対象に関する学習内容は,これらの状況把握カテゴリーと政治的行為カテゴリーによって選択・構成される。他方で,政治的行為可能性を検討するための鍵となる問いが,「危険とチャンス」の具体像をもとに導き出される。選択・構成された学習内容のうち,政治的行為可能性にかかわるものについて,このような鍵となる問いにもとづく学習過程が展開する。しかし,1975年版教科書『見る 判断する 行動する』を検討すると,鍵となる問いの一部は確認できるが,状況把握カテゴリーも政治的行為カテゴリーも読み取ることが難しい。理論と教科書内容の間にこのような乖離が存在するのは,ヒリゲンにおいてカテゴリーに与えられた第一義的な役割が,教師が教育内容研究を行い,教育内容を構造化するための指針を示すことであったためでもあろう。ヒリゲンのカテゴリー教育論の功績は,「洞察」を政治教育の内容構成原理とする考え方から,特定の理解内容を対象から読み取る道具としてのカテゴリーを内容構成原理とする考え方への転換を図ろうとしたこと,後のカテゴリー教育論に受け継がれ,定着していく,カテゴリーを弁証法的相補関係にある二項をセットにする考え方を提倡したことにある。
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