研究概要 |
近年の生徒志向学習論者の代表格であるW.ザンダーの政治教育論を検討した。ザンダーは,認識論的構成主義に依拠しながらカテゴリー学習論を批判し続けている。政治教育の目標は民主的な社会に参加し,自身の市民的権利を行使するための資質と知識を身につけさせることだとする。その資質は,政治的判断能力,政治的行為能力,方法的能力である。特に政治的判断能力にかかわって,政治的判断のためのカテゴリーを習得させようとするカテゴリー学習論を批判する。この根拠を,カテゴリーという概念の不明確さ,学問の多元性からくるカテゴリー体系確定の困難さ,対象の論理ではなく学習の論理の大切さに求めている。しかし,政治的判断における学習の進展を論じる中で,事実上,一定のカテゴリーの習得を想定していることが読み取れる。政治的判断の質の向上は,「複雑性の増加」であるとする。そしてそれは,価値判断の場合は判断の理由として参照する領域が個人的な利害から特定の社会で有効なルール体系,全ての人間に有効な普遍的倫理原則へと拡張することであるとする。また事実判断の場合は,「水平方向」と「垂直方向」への問いについてより精緻に分析ができることであるとする。「水平方向」の問いとは,政治の諸時限(法的・制度的枠組み,参加諸グループ・個人の目標・利害,現実の権力関係を考慮に入れた立場貫徹機会),帰結と副次的帰結,政治的なものの文脈である。「垂直方向」の問いは,メディアにおける政治の現実,中長期的問題状況,人類の課題としての政治である。つまれ,ここに列挙されたカテゴリーにもとづいて政治の分析・理解ができることを,ザンダーは前提としているわけである。カテゴリー学習論の最大の批判者の論の中に,ドイツ政治教育界においてカテゴリー学習論が根付いていることを読み取ることができる。
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