本年度は、まず、小学校の現場教師が抱える歌唱指導時における姿勢と呼吸法についての悩みを把握するために、大分県内の音楽科担当教員にアンケート調査を実施し、整理分析を行った。また、合唱コンクールで優秀な成績を収めている九州地区の小学校を訪問し、聴き取り調査を実施した。さらに、アレクサンダー・テクニーク関連の文献収集を行うとともに、同テクニークの講習を8回にわたって受講し、アレクサンダー・テクニークの理念の解明と技術の習得を行った。 以上の結果、アンケート調査からは、姿勢と呼吸法に関する悩みを抽出することができたとともに、「歌唱時のふさわしい姿勢」に対する現場教師の捉えが、単なるイメージにすぎず、体の構造や機能にもとづいたものではないことを明らかにすることができた。また、優秀校調査では、通常校との違いとして、長い時間にわたって保持することのできる姿勢と楽に歌うことのできる発声を獲得するために、指導時に様々な工夫がなされていることが明らかとなった。さらに、アレクサンダー・テクニーク関連の文献の読み取りと同テクニークの習得体験から、歌唱指導時において指導者の根拠ある正確な助言を可能とするには、人の身体構造の把握にもとづく体の使い方の理解に立った指導が重要であるということを導き出すことができた。これらのことから、アレクサンダー・テクニークの根幹をなすプライマリー・コントロール、ダンレクション、インヒビション等の概念を応用した指導プログラムの開発は、現場教師の歌唱指導時の悩みを解決するために、極めて意義あるものであるということが確認できた。
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