本研究は、米国の思想や制度を受け入れて成立したと考えられている日本の社会科の理論(学習指導要領)及び実践を、我が国の戦前の教育との関係及び米国の教育との関係から見直すという視点に立ち、新たな解釈と評価を行うことを目的としてきた。これまでの研究成果は以下の通りである。 (1)社会科はその設置にあたって、文部省及び東京都は実験学校としてそれぞれ7校を指定している。それらの学校が実験授業を行う際に参考とした実践を分析した結果、戦前の未分科教育、直観科(全体教育)、社会科などと関連性があることが判明した。そこで、未分科教育の実践校から、兵庫県女子師範附属小や神戸市東須磨小、東京本所区横川小の、また直観科(全体教育)・社会科の実践校から、東京女高師附属小を取り上げて、戦後の社会科の実践との関連性を実証的に考察した。 (2)昭和22年に設置された社会科の理論、カリキュラム及び実践の指針である『昭和22年度版学習指導要領・社会科編』を取り上げて、改めて米国の社会科(ヴァージニア及びカリフォルニアプラン)や戦前の合科学習、戦後直後の公民教育等と照合して、従来言われているようなアメリカの社会科の単なる模倣ではないことを解明した。 (3)昭和22年度作成の学習指導要領の具体化のために指定された、文部省教科書局指定実験学校(7校)から東京第二師範女子部附小を、東京都教育局指定実験学校(7校)から桜田小学校を選択・焦点化して、カリキュラム構成や実践を精査した、戦前の教育実践から継承している点を実証的に明らかにした。 (4)CIEの初等教育担当者であり、米国の有力な指導者であったヘファナンの主宰・指導する初等教育研究協議会の協議内容を分析し、その内容が前述の二つの実験学校に伝えられ、改めて米国の社会科が取り込まれて、戦後の日本における社会科のカリキュラムの編成や実践が、本格化することを実証的に明らかにした。
|