本年度、執筆した雑誌論文「正岡子規と女性-介護の現実、団欒の夢-」は、本研究課題の中心基層である、中等教育国語科の音声言語を援用した教材開発のうち、詩歌教材を提供する際に、作家情報と作品自体の引用バランスについて考察する前提をなす論考である。従来、短歌、俳句、詩の紹介と作家情報の提供とは、作品の背景を作家情報が補填するといった形でなされることが多く、作家およびその周辺人物たちの「声」(書き残された対談や回想録など)を当該文学作品と有機的に対比・複合させる教案の提案はなされたことがなかった。しかし、こうした遺された「声」に還元可能な教材を、文学作品本体と再編成し、朗読を駆使した教材化することで、いまはすでに消え去った歴史の時空を、生徒たちに直接、追体験させることが可能となる。今年度執筆した「正岡子規と女性-介護の現実、団欒の夢-」は、子規の介護者でもあり遺族として子規の顕彰に生涯を賭けた妹・正岡律と、子規の弟子たちの「声」を時代の文脈の中で意味づけつつ、子規の韻文を教材化する前提を論及したものである。 これまで作家情報の提供として散文を、「声」に出す形で扱うことは、詩歌の朗読に馴染まないこととされてきたが、インタビューあるいは回想録の朗読は、作品世界を損なうことなく、その世界を補足し当時と現在とに架橋する役割を果すものとなる。よってこれは、教職関連科目「中等教育国語科インターンシップ」において神奈川県立相模原高等学校と提携して実施している、朗読を機軸とする詩歌の教案(戦没詩人・竹内浩三の詩歌と散文を使用)の改造にも直結する、理論的・実践的な試論となっているのである。
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