平成22年度は、研究代表者と分担者が所属する石川工業高等専門学校での科目「日本文学」の受講者(18歳から19歳)と一般高校での科目「文学」の受講者(17歳から18歳)に協力を依頼し実験を進めた。受講者はあらかじめ村上春樹の「ノルウェイの森」を何度か読んだ後、実験に参加した。実験では、こちらで指定した文庫本4ページ程度のシーンをその場で黙読させ、SD法を用いた印象評定を実施した。評定尺度として、文学と音楽のいずれをも表すと考えられる22の形容詞対を用いた。それぞれの学校において説明者は異なるが、説明内容は同様になるように調整した。その後の音楽の提示では、その有無による影響調査のため、「日本文学」の受講者においては音楽を聴くグループと聴かないグループに分けて実験を進めた。その後、シーンについての解説を行い、もう一度印象評定実験を実施した。このようにして教育環境の違いと音楽提示がシーンの理解にどのような影響を及ぼすかについて調査した。 印象評定実験のデータは因子分析により解析を試みた。シーンの解説を受ける前後での印象の変化を2つのグループで比較すると、音楽を聴いたグループの印象変化は有意であることが判明した。聴かなかったグループの変化は有意でなく、音楽は小説世界への理解に変化をもたらすと判断できる。さらに、その変化の教育環境依存性を調べた結果、その変化に差異はないという結果を得た。今年度は昨年度とは別のシーンで解析を進め、国語教育に音楽鑑賞を取り入れることで、文学作品を別の視点から捉えることができ、創造的な鑑賞力や情緒力の育成につながる効率的な感性教育に結びつくことを検証していく。
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