本年度は、昨年度までのアクションリサーチに基づいて、美的教育における「ワークショップ」という教育実践の方法原理を分析的に整理すると同時に、学び手の協同探究を成立させる実践者(ワークショップのファシリテータであるティーチングアーティスト)の役割を定式化し、この教育実践方法を学校教育の文脈に導入する時の、実践者の「鑑識眼」と「批評」の意味を、リンカーンセンターインスティテュート(以下LCIと略記)の美的教育プログラムに深い影響を与えているデューイ芸術論を参照しながら再評価することを目ざした。 前LCIティーチングアーティストであるJ・ジェームズ氏のワークショップの分析から、ワークショップ実践者の「鑑識眼」と「批評」が、方法原理であると同時に目的原理であることが示された。実践家であるティーチングアーティストは、当該の作品に対する自身の経験を学習者による鑑賞経験に対する「先行経験」と位置づけることで両者を連続的に観ており、それゆえに、ワークショップが学習者と実践家とが共に探究的に作品に向かう場として再構成されることが明らかになった。そこでは、実践者自身が学び手と協同で新たな見方の創出を試みており、それが近代学校教育に典型的な教師-生徒の関係とは異なる関係性をもたらしていること、またそのことが学習者の学びを起動する要因となっていることが明らかになった。また、アクショ.ンリサーチの結果から、これを学校教育の授業の文脈に導入することが可能であることが示された。 学び手に先行する「鑑識眼」と「批評」は、実践者に求められる要件であるに止まらず、学び手の協同言語行為としての批評の生成と共有が実践の目ざすものでもあり、それを通して学び手の中で鑑識眼が形成されていくプロセスとしてワークショップ教育実践を捉え直すことが可能になった。
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