研究概要 |
本年度は,年齢の発達に伴う児童の確率判断の実態の変容を縦断的に考察するとともに,児童の実態に配慮した学習材(ルーレット(連続量素材)の問題)及び学習指導過程のモデルを考案し,実践的検討を行うことを目的として,以下の研究を行った。 1.研究第1年次(平成21年度)の実態調査の被験者(広島県下の公立小学校3校:広島市立長束西小学校,東広島市立高美が丘小学校,竹原市立竹原小学校の全学年児童)を対象として,同一問題(具体的な問題場面における当たりやすさの比較問題:玉引き(分離量素材)の問題6題,ルーレット(連続量素材)の問題8題)による実態調査(第3年次)を実施し,児童の確率概念の実態を縦断的に把握・考察した。 2.Vinner, S.とHershkowitz, R.による共通概念経路の検定の手法を用いて,玉引き問題及びルーレット問題における異質の問題間の認知経路の検定を行った。その結果,第6学年の児童において,ルーレットの当たりとはずれの面積比の異なる円板の比較問題から面積比が等しく分割や大小差の要素を加えた円板の比較問題への認知経路が複数検出された。そこで,実態調査の対象校である東広島市立高美が丘小学校の第6学年児童を対象に,検出された認知経路に配慮した学習材(連続量素材であるルーレット問題)及び学習指導計画に基づく授業実践を行い,児童の確率概念の変容を考察・検証した。その結果,昨年度の玉引き(分離量素材)の問題と同様に,ルーレット(連続量素材)の問題における当たりやすさの判断(数学的確率において当たりやすい板を選択した児童の割合)も高まり,また,当たりやすさを児童が数量化した結果としての評定値と数学的確率としての基準値との偏差も小さくなるという変容が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の確率判断に関する実態調査及び共通概念経路の検定において,研究授業実施対象児童の到達度が授業前の段階で極めて高く(昨年度の授業実施クラスと同じクラスであるため,この結果自体がこれまでの本研究の成果でもあるが),さらに多様な認知経路を有することが判明した。検出された複数の認知経路に応じた複数の学習材開発を行い授業を実施したいところであるが,授業に充てられる時間数には限りがあるため,検出された多様な認知経路を可能な限り統合する方向での学習材開発を行い,授業を実施した。結果的に児童の確率判断の到達度はさらなる高まりを見せている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,これまでの研究成果を基盤に,初等教育段階における確率概念の形成を意図したカリキュラムを構築・提案する。具体的には,学年別の指導目標と内容の系統表,学習材及び学習指導過程のモデルを作成する。
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