平成23年度は、前年度まで個別に進めてきた、研究を連携し、(1)教育プログラムの具体的な研究成果の提示、(2)伝統技術のアーカイブという視点からとらえた、大学教育の可能性の提示、(3)繊維産業への実践的貢献の可能性の提示を目指して研究を進めた。 (1) 前年度まで試行した短期教育プログラムにおいては、その技術の一側面に絞った教育効果を得た。本年度は西陣織物技術が必要とする一連の長い工程の中で、複雑で高度な技術を簡略化して、効果的に習得するための「紋織着物プログラム」を実施した。このプログラムでは、音と触覚の関係から技術を伝達するために必要な要素の確認がさらに具体化され、織物組織の種類の多様性にも、対応できるものへと展開を進めた。このプログラム試行の結果、教材の開発へと具体的な視点を得た。 (2)・(3) 伝統技術のアーカイブという視点から、明治期の織機、道具を使った短期プログラムを試行した。本年度は、これらの道具と、最新の3Dで組織構造を提示するソフトとを組み合わせることで実現する、「織物さかのぼりプログラム」を作成した。これは、産業における織物教育にも非常に有効であり、研究の発展的な可能性を提示するものといえる。このプログラムは、製織システム、製織技術、織物組織構造を一体化した実践的な理解をもとにして、創造的な新しい織物開発を可能にする能力の習得を目指すものとなり、さらに、応用力のある織物データベース構築の具体的な方法を提示するものである。 以上、本年度の研究は、プログラム作成による具体的な成果と、さらなる視点を提示することができ、今後の研究への発展的な可能性を確信するものとなった。
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