戦後のわが国と韓国の道徳教育において、おおかた両国では制度的、内容的に非常に近いかたちで行われてきたが、韓国では1970年代から教科教育学的視点から整備が進められることで、道徳教育の目標、方法、内容に関する、より本質的な究明が進められてきたと捉えられる。一方、1958年の「道徳」特設以降もイデオロギーの対立に巻き込まれる中で「道徳の時間」の存在自体が論争化してきたわが国においては、学問的あるいは教科教育学的な視座からの研究は置き去りにされ、特設道徳の在り方に関する本質的な究明は大きな課題となってきた。よって本研究では、韓国道徳科の成立期における展開実相について、カリキュラムと教科書を中心に分析することにより、特設あるいは教科教育としての道徳教育の原理を究明し、わが国への示唆を得ることを目的とした。具体的には、韓国における1945年~1960年代の道徳教育関連教科のカリキュラムと教科書を対象に、道徳教育が特設道徳から教科教育の道徳教育として成立していく過程を歴史的、理論的に究明しようとした。 平成23年度は研究の最終年度であり、8月には訪韓して研究者と研究交流するとともに資料の分析に重点を置き、その研究成果を学会および学会誌等で発表した。平成23年7月17日には日本カリキュラム学会北海道大学大会で「韓国の米軍政期『初等公民』教科書にみる道徳教育-朝鮮語学会との関連を中心に-」を発表した。論文としては、平成23年5月に東北教育学会誌『研究紀要第14号』に「1960年代の韓国道徳教育カリキュラム-『反共・道徳生活』の歴史的意義-」を、平成24年3月に国士舘大学アジア・日本研究センター紀要『AJJ09』に「米軍政期の公民科に見られる韓国道徳教育の原点-『初等公民』教科書の分析を中心に-」を発表した。また平成23年12月には保育出版社発行『自ら学ぶ道徳教育』に「韓国における道徳教育」を執筆した。
|