日米の戦争体験高齢者(パール・ハーバー攻撃生存者と広島の被爆者)を対象として、過去の「健康体験」、その後現在に至るまでの健康被害とその影響を聴き取り、体験の個人差と文化差、それらの共通点、およびその後の歩みの中で健全さを回復しようとする強さに着目した分析を行い、その成果をもとに学童、中学生、一般の人々に向けた教材作成、普及活動を行っていくことを目的とする。今年度は米国協力者計26名と、広島被爆者計28名に実施したインタビューについての分析を完成させ、原著論文として掲載された。広島被爆者からは、1.原爆の投下によって、先が見えない状態のまま終戦を迎えたこと、2.「被爆者」になること、3.かけがえのない平和へと通じる、人生の意味/目的を見出すこと、という3つの大きな転換点が見出され、パール・ハーバー攻撃生存者からは、1.日本軍の爆撃を受けているという事実を理解し、それに何とか対処しようとすること、2.戦争体験の記憶を誇りに思いつつもそれに拘泥せず、日常的ではあるが価値のある活動に従事すること、3.安らぎをもたらし自分を理解してくれる場としての他者との絆を大切にすること、という3つの大きな転換点が見出された。原著論文は、日本語訳をして日本側の協力者、広島と東京の被爆者団体協議会に送付した。また国際ヒューマンケアリング学会において、協力いただいた3名の被爆者の参加も得て成果を発表した。さらに、インタビューデータをもとに朗読劇として脚本化するため、米国Florida Atlantic大学芸術学部博士課程学生のKetty Morris氏に全面協力してもらっている。すでに脚本の原案は完成し、米国フロリダ州において朗読会を開催している。今後正式な上演のスケジュール確認、日本での上演方法などについて検討しているところである。児童向けの教材作成に関しては、米国Florida Atlantic大学芸術学部Andrew Binder准教授の協力を得て、ポップアップ絵本を念頭に置いた製作を開始している。
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