今年度、筆者は、人工内に装用児にも音韻意識の獲得に困難を示す者がいることを示し、混乱型と呼ばれる彼らの音韻分解と言語習得の実態、および関連要因について検討を行った。その結果、混乱型における促音の音韻意識の発達に聴器装用児とは異なる特徴的な反応があった。このことに関しては、促音の認識に子音の持続時間という音響的手がかりが一般的には利用されることから、人工内耳の音声の時間情報伝達様式や聴覚心理的効果における補聴器との違いが混乱型の音韻意識の発達に関与した可能性がある。今後、この点を明らかにするため彼らの時間分解能や促音の習得過程を補聴器装用児と長期的に比較することが必要であろう。また人工内耳装用期間のみならず語彙力の関連が示された。このことは、人工内耳装用児の言語発達における教育的関わりの重要性を改めて示すものといえる。以上のことから、人工内耳装用児の混乱型の指導を考える場合、材料としては、促音を中心とした特殊音節を含む語を多く用い、コミュニケーションを通じて語彙を増加させながら、音韻分析技能と日本語の時間情報単位の一つであるモーラリズムの認識能力向上に重点を置いた指導が必要であることが示唆された。また本研究の結果から音韻意識の発達に対する聴知覚経験の影響も示されたため、補聴器装用児よりも聴取能に優れる人工内耳装用児に対しては、音声の聴取を多く組み込んだ音韻意識の指導法の効果に関心が持たれ、今後の研究課題といえる。
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