発達障害児・者の示す困難については学習や対人関係、行動などがよく指摘されるが、近年注目されているものに身体や手指の動きの不器用がある。不器用は、一般に、運動・動作が巧みではないこととされており、学校生活の様々な場面での困難に関連している。本研究の目的は、発達障害児・者の不器用の実態を多角的・多面的に明らかにし、結果に基づいて教育指導・支援方法の原則を考察することである。今年度は実態の検討に加えて指導支援の原則を考察した。対象(被験者)は、知的障害のある発達障害児・者(特別支援学校児童生徒、知的障害児者施設利用者)、知的障害のない発達障害児・者、健常児・者(幼稚園、小学校、大学等)である。実態の側面については、ファンクショナルリーチテスト(FRT)を実施した。被験者は起立した状態で転倒しないようにできるだけ腕を前方に伸ばす。この距離が長いほど成績が高いとみなす。簡便に行なえ、距離という定量的データが得られるため、近年のリハビリテーション医学で注目されているテストであるが、発達障害児・者に対して行なった研究はない。ここでは知的障害のある発達障害者をまず対象とした。結果として、知的障害のある発達障害者のリーチングの距離は、健常者と比較して有意に短く、運動機能が低く不器用であることがわかった。しかし、前方にリーチングの目標を設置する支援条件を行なったところ、知的障害のある発達障害者の成績は劇的に上昇することが明らかとなった。ここから、発達障害児・者への不器用の支援の原則として、行為を外から意味づける環境整備の重要性と、行為の意識を環境に向ける支援が有効であることが示唆された。
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