研究概要 |
本年度の計画は,知的障害者の眼球運動及び手指運動機能の実験的測定を行い,両運動機能に関連する要因を特定することであった。眼球運動については衝動性眼球運動を測定し,その結果,(1)知的障害の程度が重いほど反応潜時が延長すること,(2)言語の行動調整機能が低いほど反応潜時の変動性が増大することが明らかとなった。これらの結果は過去の知見と同じく,(1)は認知における情報処理速度の遅さと,(2)は注意の不安定さと関連していると考えられた。ところで過去の研究では両要因の関連について,注意の不安定さが処理速度の遅さの要因となっていると指摘されているものの,詳細に調べられていない。そこで,反応潜時及びその変動性を被説明変数,生活年齢,IQ,行動調整機能を独立変数とする重回帰分析を行った。その結果,反応潜時はIQとのみ,反応潜時の変動性は行動調整機能とのみ関連することが明らかとなった。また注意を方向づける役割をもつ指差しを伴わせた測定の結果,変動性は減少したものの,反応潜時は短縮しなかった。以上の結果より,知的障害者の注意の不安定さは必ずしも反応潜時の遅さと関連しない可能性があることが明らかとなった。 また,知的障害者の手指運動機能は衝動性眼球運動の反応潜時と強い相関があることが明らかとなった。今後,上記の眼球運動に対する手の機能とあわせて,手と目の運動機能の関連について更に詳しく分析していく予定である。加えて,今年度は知的障害者の手の運動機能の調整の分析の参考とするため,幼児期の発達に関して検討した。その結果,過剰な出力が優位な時期,過剰な抑制が優位な時期を経て6歳頃に言葉の指示に従った調整ができることが明らかとなった。
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