本年度は知的障害者の眼球運動機能について、1)関連する影響因の検討、及び影響因の関連性を明らかにすること、2)影響因の中で、これまで十分検討されてこなかった知的障害者の実行機能の特徴を明らかにすることを目的として研究を行った。 1)2)に関して、知的障害者の衝動性眼球運動機能の反応潜時の分析を通して検討を行った。これについては、従来の反応時間研究より、知的機能が主に関連することが予想されたが、検討の結果はこれを支持するものであった。本研究では、これに加えて実行制御機能の関連を検討した。実行機能は主に衝動性眼球運動の反応潜時のばらつきに影響を与え、潜時そのものには影響を与えないことが明らかとなった。ただし、反応潜時のばらつきが大きくなることは潜時の延長につながるものであり、実行機能の問題はばらつきを大きくすることを通して間接的に反応潜時を延長させるというメカニズムがあることが示唆された。 また、知的機能と実行機能の間には相関があると思われるが、個別の実態を詳細に検討した結果、知的機能と実行機能の状態に解離がみられる者が少なからず存在することが明らかとなった。これは、例えばADHD者において、著しい知的機能の問題がない一方で顕著な実行機能の問題があるということから十分考えうることと思われる。知的機能が高い一方で実行機能に問題を有する場合、反応潜時は著しく延長しないが、若干の延長がみられること、知的機能が低いが実行機能に大きな問題がない場合、反応潜時の延長はあるもののやはり、その程度は小さいことが明らかとなった。
|