本年度は、知的障害者の眼球運動機能の効率性と変動性の年齢変化について主に検討した。眼球運動としては衝動性眼球運動(サッケード)を対象とし、効率性の指標としてはサッケード反応時間の平均値(SRTM)を、変動性の指標としてはサッケード反応時間の標準偏差(SRTSD)を用いた分析を行った。これまでの研究において、運動の効率性は変動性の影響を受けることを明らかにしてきた。しかし、この関係性に対する年齢の影響は明らかにできていなかった。SRTMとSRTSDのいずれについても、年齢変化を調べたところ、思春期を通して減少するが中年期以降、増大するというU字の変化傾向を示すことが明らかとなった。つまり、SRTMとSRTSDの年齢変化は共変関係にあることが明らかとなった。このことは、SRTSDとSRTMの関係性についても、年齢に係わらず一定であることが推察された。 この結果と、これまでの研究成果を合わせて考えると、知的障害者の運動機能の支援については、まず変動性の特徴に着目する必要があると考えられた。より具体的には、変動性を低減する支援によって、極端に遅い反応をなくすことで、全体としての効率性を高めることができる、という見通しを持つ事ができた。運動の効率性の向上は、能力の限界を引き上げるような困難なアプローチをイメージしやすいが、本研究の結果はこういったアプローチとは明らかに異なる。行為対象への注意を高める工夫によって安定性を高めることが結果的に効率性を高めることに繋がるというものである。これは、支援方法として無理のない、生態学的にもより妥当な支援方法といえるであろう。
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