研究概要 |
今年度は,3年間の研究の最終年ではあるが,研究2の事例が音韻的側面の問題が強い事例であったため,比較検討対象のためにも視覚的側面の問題のある事例が必要と考え,引き続き研究2を遂行した。具体的内容としては,福井市平谷こども発達クリニックにおいて,学習障害の診断を受けた一児童に対して,事例研究として,読みの包括的な評価(音韻的側面の問題に加えて視覚的認知の側面,音読の速度等の測定など)を行い,その障害機序について検討した。その結果,現在明らかに陽性症状として認められない視覚的認知の問題が明らかになった。これは認知神経心理学的モデルにあてはめれば,視覚的分析の部分の問題であり,文字-音韻の結びつき以外にも音読の苦手さの重要な要因になっていると考えられた。本症例の場合は知的障害や広汎性発達障害が認められないため,得られた結果は発達性読み障害の結果であると言える。今後は主としてクリニックにおいて言語聴覚士が読みの指導を継続的に行う予定なので,その指導についてスーパーバイズするとともに,長期的フォローを行っていく予定である。この評価結果は,7月の発達性dyslexia研究会で発表の予定である。 昨年度の課題として,学校とのより緊密な連携,および担任や特別支援教育担当の教員に,読み障害についての情報を提供して,学校における指導に成果を生かしていくことを挙げた。この点については,川崎市の小学校の特別支援教室および通級指導教室を月1度巡回するとともに,1年生の4クラスについて重点的に授業の中で子どもの様子を観察した。1年生の1学期以降,読みの苦手な子どもを継続的に観察し,担任に指導するとともに,年度末の校内特別支援教育研究会で読み障害についての啓発を行った。
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