本研究課題の第1の目的は、特別支援学校教諭免許状の有無と専門性およびメンタルヘルスとの関連について、教員に対する質問紙調査と諸検査から実証的に明らかにすることである。研究初年度は、特別支援学校教諭免許状を保有しないまま障害児の指導にあたっている現職の本務教員200名を対象とした。十分な説明の上で、個人情報に細心の配慮をして無記名番号式の結果フィードバックを保証し実施したところ、189名より有効回答を得られた。1割以上の教員が調査後に個別な相談を求めてきており、教員に対するメンタルヘルスサービスの必要性を強く感じた。調査結果から、58.8%もの教員が精神健康度検査(GHQ28)で6点以上を示し、メンタルヘルスに何らかの不調があるものと考えられた。その他、「ストレッサー尺度」「対処行動測度」等についてもデータ収集し、教職経験年数や特別支援教育の専門性自己評価、校内/校外相談者の有無、ソーシャルサポート等との関連性について検討した。本研究課題の第2の目的は、教員の精神疾患の予防方法について、訪問調査から優れた実践ノウハウを収集し、わが国の各都道府県教育委員会等で実施するのに望ましい予防プログラムの試案を作成することである。初年度は国内外の民間企業等で広く導入されているEAP(従業員支援プログラム)についての情報収集にもっとも重点を置いた。EAPに関するフォーラムに参加し、民間のサービス事業所の情報を多数入手し、各事業所のサービスプログラムについて分析した。その結果、メンタルヘルスの質問紙調査による診断はどこの事業所でも提供していたが、相談やカウンセリングについては、対面式で提供可能な事業所、Webや電話に限る事業所、提供しない事業所の3群に大別された。メンタルヘルスの質問紙調査による診断のコストは事業所によりまちまちであり、また依頼人数によっても変動するが、教育委員会で導入するとなれば多額の費用がかかると想定され、費用対効果についても十分に検討しなければならない課題であると考えられた。
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