研究概要 |
本研究は、軽度発達障害児の臨床症状として重複することの多い多動性、不注意、衝動性の3症状と、その背景となる注意障害との関連を明らかにすることを目的に、様々な視覚刺激に対する反応時間と臨床症状との関連を分析した。平成22年度は平成21年度に引き続き対象者の障害構造および行動上の特性を把握すると伴に、開発した注意機能評価を用いてデータ収集を行った。注意機能評価は(1)黒色の背景画面の中央に固視点が呈示された後,固視点と入れ替わりターゲット刺激が呈示される"1点呈示課題"(2)固視点とターゲット刺激の配置は1点呈示課題と同様であるが,黒色の背景の画面全体に縦横1cm間隔で配置された視覚ノイズが左から右へ移動する"1点呈示妨害課題"(3)固視点から半径10cm面の同心円上の予め決められた8ヶ所の内いずれか1ヶ所にターゲット刺激が呈示される"1点円周呈示課題"(4)1点円周呈示課題に1点呈示妨害課題と同様の視覚ノイズは呈示される"1点円周呈示妨害課題"(5)住宅街の写真の道路にターゲット刺激(消防自動車)が8カ所呈示される"消防車課題"とした。現在まですべての情報収集を終えた対象者は、知能指数(WISC-III)トータルIQで82-109の範囲で広汎性発達障害もしくはその疑いと診断された7-11歳までの何らかの注意に関する症状を持つ5名である。結果では(1)(2)では反応時間に遅れはなく視覚ノイズの有無による差も認められなかった。(3)では2名のみが実施可能、(4)では全員が検査途中で実施が不能であった。(5)は普段からボートしていることが多いと指摘されていた1名が極端に遅延し,他児は参考値の健常成人から比べると50-100msec程度の遅れが認められていた。本結果からは呈示刺激の空間的な広がりが発達障害児の注意機能に大きく影響し、注意の空間的な配分と移動という要素が日常の行動特徴と関連が示唆された。また、視覚ノイズはターゲット刺激の位置が固定されている場合には影響せず、空間的要因と結びつくことで2次的に注意機能に影響することが考えられた。
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