研究課題
本研究は、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder,以下ASDと略す)の多彩な臨床症状を持つ患者一人ひとりのアセスメントと支援方法を、医学と教育の連携させた観点から確立するために遂行されている。今年度は、昨年度までに得られた知見をもとにして、前頭葉機能を要するタスクスイッチ課題における、NIRSによる脳血流測定での比較検討を健常者22名(19~51歳、男性6名、女性16名:平均年齢25.2歳)及びASD者11名(14~46歳、男性3名、女性8名:平均年齢29.5歳)を対象として行った。タスクは、4種類の色と3種類の形の計12通りの図形をランダムに配し、記憶させ想起させる課題を用いて独自に作成した。課題はワーキングメモリを要する記憶想起課題(ワーキングメモリ課題、以下WM)と記憶を要さない選択課題(ノンワーキングメモリ課題以下NWM)の順番で問題が交互に出され、図形の提示数は1個から順に6個まで増加する。実験の施行中は常にNIRSを装着し、前頭葉機能の変化について測定した。健常群とASD群におけるWMタスクの正解率の比較において、WM1・2の時は、健常群・ASD群ともに正解率が100%と差異は見られなかったが、WM3・5・6では、ASD群で健常群より正解率が上回る結果が得られた。また、健常群の左右前頭葉02Hb濃度相対値は、図形数2から6にかけてWMで増加、NWMで減少する前頭葉機能のタスクに呼応した切り替えの傾向が観察されたが、ASD患者においてはこの変化が著明には認められなかった。これらの結果より、ASD児者では本研究で用いたタスクスイッチにおいて、健常者で認められる前頭葉機能の賦活化以外の部位も使って対処し、むしろ健常者よりも高い正解率を道にいている可能性が示唆された。
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