研究概要 |
本研究は、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder,以下ASDと略す)の多彩な臨床症状を持つ患者一人ひとりのアセスメントと支援方法を、医学と教育の連携させた観点から確立するために遂行されている。昨年度までに申請者は、図形を用いたタスクスイッチ負荷を行った際ASD児者においては健常者で認められる前頭葉機能の賦活化以外の部位も使って対処している可能性を、高い正解率と相反する前頭葉脳血流量低下で示した。今年度はこの結果をもとにして、様々な表情をしたヒトの顔写真により、同様のスイッチングタスクを作成した。そしてこのタスクを施行している際の背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex: DLPFC)における酸素化ヘモグロビン濃度変化を測定することを通じ、ASD者の神経機能及び接続を詳細に検討することを目的とした。対象者は高機能のASD者5名(IQ>70,14-46歳2名女性)と典型発達者22名(19-38歳,12名女性)であった。タスクはワーキングメモリが要求される(WM)タスクとワーキングメモリが要求されない(NWM)タスクを交互に提示し、さらに刺激提示数は1から順に6まで増加した。刺激として顔刺激を利用した。その結果、典型発達者においてはタスクパフォーマンスに応じたDLPFCの賦活が認められたが、ASD者においては同様の結果が見られなかった。さらに、一名のASD者の側頭葉の賦活について検討したところ、紡錘状回に対応していると考えられるチャンネルにおいて、図形を用いたスイッチングタスクでは賦活が認められたのに対し、顔刺激を用いたスイッチングタスクでは賦活が認められなかった。これらの結果から、異所性の賦活によりタスクパフォーマンスに応じたDLPFCの賦活が障害されている可能性が示唆された。
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