研究概要 |
1.有限群上のランダムウォークの基礎理論.代数的には,マルコフ連鎖は,マルコフ空間(有限確率空間を頂点集合とする単体)上のマルコフ作用素(アファイン写像または線形力学系)と見なせる.この観点から,有限群の作用する集合上のランダムウォークの理論の再構成を行った.得られた理論は「単位区間を係数体とする表現論」であする.応用として,有限群上のランダムウォークの収束速度の評価をおこなった.指標値と次数との比の重要性が分かった.対称群など具体的な群について計算した. 2.分割表の列挙問題への代数的解釈.分割表は対称群のヤング部分群による両側剰余類の集合と見なせる.したがって対称群上のランダムウォークは分割表のランダムサンプリングを誘導する.フィシャーの並べ替え検定やダイアコニスたちによるマルコフ基底を使った分割表のランダムサンプルイングとの関係を解明した. 4.鉛同位体法への応用.鉛の混合があるとこれまでの方法は鉛の産地推定に使えない.離散線型力学系と離散アファイン幾何に基づく新しい方法を開発した.今年度はこの分野に重点を置いた. 5.その他.マルコフ空間に関して,マッキー分解やフロベニウス相互律などを発見した.有限群論や,代数的確率過程,代数統計の分野の基礎をなすバーンサイド環やマッキー関手の基礎理論について研究した.統計解析用ブログラム言語Rで,鉛同位体法関係のいくつかのプログラムを作成した.数式処理ソフトMapleで,有限群上のランダムウォーク関係の計算をおこなった. 7.これらの研究成果をいくつかの研究集会で発表した.とくに,専門外の考古学関係の学会で,京都の古墳から出土した青銅器の製造の過程について講演したが,かなり強い関心を持たれた.報告集はあるが,論文はとりまとめ中である.斜バーンサイド環の最後の論文が代数の専門誌に掲載された.
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