研究概要 |
古典的な楕円保型形式はモジュラー曲線上の線束の切断として、自然に代数体やその整数環上の構造を持つ。実際の整数論の研究に際しては、その構造は保型形式のCMサイクル上の周期やFourier係数に表れる。志村、Waldspurgerらによって得られたこれらの結果をレベル付き、つまり分岐を持つ保型表現に拡げることを目指して研究を進めている。 保型形式のCM周期はランク1の群上の保型表現の楕円的トーラス上の周期積分の特別な場合と見なすことができる。GL(2)以外の場合にはこの周期も内視論の影響を受けると考えられる。しかし非自明な内視論の影響がある場合の周期については、Gross-Prasad,池田・市野、Gan-Gross-Prasadによる予想があるのみである。そこでSL(2), 2変数ユニタリ群のように、ランク1で非自明な内視論を持つ場合のトーラス上の周期の記述を進めている。 保型形式の周期の記述にはテータリフトの満たすシーソー等式を用いるものと、Jacquetの相対跡公式を計算する方法がある。相対跡公式と内視論の関係はわかっていないため、当研究では通常の跡公式とシーソー等式を用いている。まずこのテータリフトに用いる実ユニタリ群のテータ対応を整備した。柏原・Vergneによる実ユニタリ群のテータ対応は大域類似を持たない局所データに依存しているため、これまでのこのテーマについての計算結果は保型形式論に適用できなかった。そこでHarris-Kudla-Sweetによるダブリングを用いたWeil表現の構成(これまでのものとは同型でない)に対するFock模型を計算し、それによる楕円的緩増加表現の間のテータ対応を記述した。現在は実ユニタリ群の内視論の計算を進めており、その結果と合わせて実ユニタリ群のテータ対応についてのPrasadの予想を確立しようと考えている。 シーソー等式は局所類似を持っており、Fock模型のない非アルキメデス的な場合にはこれを多用して局所テータ対応を計算する。このシーソー等式と内視論の明示的記述を組み合わせて、GL(2)の既約指標に対する齋藤・Tunnellの公式を2変数ユニタリ群に拡張した。またこれにより2変数ユニタリ群に対する局所Gross-Prasad予想が、内視論による表現のパラメタづけに対して正確に成り立つことが確かめられた。ここで用いた2変数ユニタリ群の内視論の計算は原稿にまとめられており、現在出版に向けて改訂を進めている。
|