k を代数的閉体とし,考える多元環はすべて k 上の,単位元をもつ結合多元環とする。また,考える圏はすべて k圏とする。 研究目的の(4)「振動数が整数であるような多重拡大多元環のクラスについて、導来同値分類と導来同値のもとでの完全不変量を求める。」を以下のように進展させることができた。まず,遺伝多元環 H に導来同値な多元環 A を区分的遺伝多元環とよぶ。H のクイバー Q が有向樹木であるとき A は樹木型であるという。また,多元環 A と自然数 n に対して,A の反復圏 A' の自己同型φは,A' の0次部分を n 次部分に移すとき飛びが n であるという。多元環は,飛びが n であるような自己同型φで生成される巡回群による軌道圏 A'/<φ> の形に書けるとき,A の一般 n 重拡大であるという。n を明示しないときは単に一般多重拡大とよぶ。また,A の自己同型ψから自然に導かれる A' の自己同型ψ' と A' の中山自己同型νの n 乗ν'によって軌道圏 A'/<ν'ψ'> の形に書ける多元環を A の歪 n 重拡大という。n を明示しないときは歪多重拡大という。ν'ψ' は飛びが n であるので,歪 n 重拡大は一般 n 重拡大になっている。主結果として,樹木型の区分的遺伝多元環の一般多重拡大のクラスに対して,導来同値のもとでの完全不変量を求め,導来同値分類を与えた。これを行うため,一般多重拡大から標準的な方法で歪多重拡大を構成し,そのどちらもが共通の遺伝多元環の一般多重拡大に導来同値であることを証明した。これを用いて,一般多重拡大の導来同値分類を,歪多重拡大の導来同値分類に帰着させて問題を解いた。
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