本年度の特筆すべき成果は、トーリック多様体のモチビックチャウ級数の、A^1-ホモトピーの元での有理性の証明、というJavier Elizondo教授との共同研究である。 研究代表者のこれまでの主要成果であるモチーフの有限次元性は、モチビックチャウ級数の言葉で言えば0サイクルのモチビックチャウ級数の有理性とほぼ同値である。一方、Elizondo教授のこれまでの大きな成果として、一般のdサイクルに対して、モチビックチャウ級数の像であるオイラーチャウ級数の有理性を単体的トーリック多様性の場合に示した、というものがあった。これから自然に、単体的トーリック多様体の一般のdサイクルに対してモチビックチャウ級数は有理的であろう、と予想されるが、実はこれは成り立たないことが、Elizondo教授との共著の論文で示されていた。本年度の主結果は、モチビックチャウ級数をA^1-ホモトピーで割れば有理的になる、という定理である。なお、この定理はElizondo教授の「単体的」という仮定が不要な証明であり、オイラーチャウ級数の結果としても新しい結果を含んでいる。研究代表者は全ての射影的代数多様体に対してモチビックチャウ級数が有理的になるであろうと予想しているが、Elizondo教授は射影平面の10点ブロウアップの場合ですら有理的でないであろうと予想している。共同研究者の間でこのように予想がわかれるのは、この定理がこれまでの理論の枠を越えた新しい現象であることの証左であり、その一般化を追求する過程で新しい分野が生まれる可能性もある。
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