本研究課題では、モチーフの有限次元性予想、およびその周辺の問題について研究を行った。平成23年度の研究で大きく進展したのは、モチビックChow級数の有理性についてである。0次元Chow多様体のモチビック級数の有理性はモチーフそのものの有限次元性とほぼ同値であり、正しいと信じられているが、1次元以上のChow多様体のモチビック級数の有理性については、2次元以上の射影空間の余次元1の場合ですら有理的でないことを本研究の中で示していたが、A^1-ホモトピー、つまりモチーフMと、MにA^1のモチーフをテンソルしたモチーフとを同一視する、という同値関係で割ると、全てのトーリック多様体のモチビックChow級数が有理的になることを証明した(Elizondo氏との共同研究)。これは全く新しい現象であり、今後の大きな飛躍へのきっかけになる可能性を秘めている。その可能性の第1として、Colliot-Thelene教授に指摘されたことだが、A^1-ホモトピーの同一視をする、ということは、1元体F_1上で点の個数を数えることにあたること。つまり、1元体上ではChow多様体という高次元化のもとでWeil予想の一般化が期待できるのである。なお、トーリック多様体は一元体F_1上で定義されることが知られている。一方、射影平面上で十分多くの一般的な点でBlow-upすると、そこでのモチビックChow級数が有理的にならないことを、最近の高橋宣能氏、黒田茂氏との共同研究で明らかにした(投稿準備中)ので、この成果はF_1上の幾何を扱っているのかもしれない。第2の可能性は、非可換モチーフを見ているのかも知れない、ということ。Chowモチーフの圏から非可換モチーフの圏への自然な射があるが、その射においてはA^1-ホモトピーは同一視されることが知られている。非可換幾何の視点からこの現象を説明することは、今後の重要な課題となる。
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