昨年度発表した代数曲線族の退化ファイバー芽の符号不足数に関する研究(Comemnt.Math.Helv.2010)の中では、古典Dedekind和をHirzebruch-Jung型連分数で表す公式が重要な役割を果たした。ところが思わぬ事から、この型の連分数の高次元拡張に関するアイデアが得られ、古典的な2次元孤立巡回商特異点と連分数の関係が、一般次元に拡張できる可能性が膨らんでいた。 さて本年度は、まずこのことが以下の形で定式化できた。すなわち、多重分数係数のある非可換多項式を連分数の拡張版と見ることができ、これが一般次元の孤立巡回商特異点のある解消プロセスを統制し且つ例外集合に関する幾何を記述することができる。 さらにこの研究の中で次のような新しい視点を得ることができた。既約半ユニモジュラー錐のOka-Danilov細分から生じるトーリック双有理正則写像は、孤立巡回商特異点を一般には複数の非孤立な巡回商特異点達に分解するが、これらの特異点の間にはある不変量に関して「巡回的な双対等式」とでも呼ぶべき関係が生じる。この不変量はAtiyah-Singerの同変L類をトーリック幾何で焼き直したある式を余接関数の拡張とみなして積と和をとって得られる「一般化Dedekind和」とでも呼ぶべきものである。もしも上の特異点がすべて孤立ならこの等式はZagier相互律と呼ばれるものに一致することが示せるので、この相互律の拡張版と見ることができる。 ただ以上のような内容はまだ不完全な点もあり、且つ色々なアイデアが出たり消えたりしている状況で本年度は正式論文は執筆できなかった。次年度それを目標にしたい。
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