研究概要 |
今年度では、有限体上定義された射影多様体の上のベクトル束から定まる代数幾何符号について研究を行った。従来の代数幾何符号では直線束の切断を評価する有理点の集合Zとしては多様体の有理点全体を取るのが普通であったが、我々はZがベクトル束から定まる零次元部分スキームの構造をもつ場合の研究を行った。特に、n次元多様体X上で階数nのベクトル束Eを考え、Eの切断の零点集合Zに於ける評価写像から定まる符号C(X,Z,L)のパラメーターを決定する事を試みた。その結果以下の様な成果を得る事が出来た。 第一に、我々は平面幾何に於ける古典的な結果であるCayley-Bacharach条件の高次元版を導入し、符号理論との関係を明らかにした。特に、Zが高次Cayley-Bacharach条件を満たすという仮定の下でC(X,Z,L)の最小距離が下から評価出来る事を示した。この結果と、Griffith-Harrisの定理のS.-L.Tanによる一般化を用いる事により、Lが高次の正値性(d-very ampleness)を満たす場合に符号のパラメーターを具体的に決定する事に成功した。この結果はEが射影空間上の直線束の直和である時(即ちZが超曲面の完全交叉の場合)には、以前J.HansenやGold-Little-Shenkによって得られた結果を含んでいる。 第二に、射影多様体上のfoliation(即ち接ベクトル場の特異点)から定まる符号のパラメーターについて研究し、代数曲面の場合に幾何学的不変量を用いた具体的な評価式を得た。これはCampillo-Farran-Pisabarroによる射影平面上の符号の研究を一般化するものである。 当研究で明らかになった符号とCayley-Bacharach条件の関係はこれまでの代数幾何符号の理論では考察されてこなかったものであり、今後の研究の進展が期待される。
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