本研究の目的は、微分幾何学的な手法により、非正曲率距離空間に対する強い固定点性質を持つ群が非常に豊富に存在すること、さらには、より強い固定点性質をもつ群の存在を示すことであった。ここで、群が空間に対して固定点性質をもつとは、その群の空間への任意の等長的作用が固定点をもつことである。この目的に沿って研究を進め、以下に述べるような成果を得た。 これまでの研究により、同変写像のnステップ・エネルギーを用いて有限生成群の等長的作用が固定点をもつための十分条件を与えることができていた。この十分条件を用いて、プレイン・ワード・モデルのランダム群が、特異性を一様に押さえた非正曲率空間の族に対して固定点性質をもつことを証明した。この結果は、生成元の個数を固定し、長さmの語のみを関係式にもつ群の有限表示に注目すると、関係式の数を十分に多くとっておけば、これらの表示が特異性を一様に押さえた非正曲率空間すべてに対し固定点性質をもつ群を与える確率が、mを無限大に発散させるにつれて1に近づいていくということを主張するもので、強い固定点性質をもつ有限生成群(この場合は、とくに、有限表示群である)が非常に豊富に存在することを意味している。 さらに、nステップ・エネルギーと通常のエネルギーの比に注目し、Hilbert空間に対する固定点性質が、特異性の低い、ある意味でHilbert空間に近い非正曲率距離空間に対する固定点性質を導くことを証明することにも着手した。これは様々な空間に対する固定点性質の相互関係を明らかにするために必要なステップである。
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