本研究の目的は、微分幾何学的な手法により、非正曲率距離空間に対する強い固定点性質をもつ群が非常に多く存在することを示すことであった。この目的に沿って研究を進め、本年度は以下のような成果を挙げた。 昨年度に引き続き、プレインワード・モデルのランダム群の固定点性質について研究を行った。研究の成果として得られた結果は、ある仕方でランダムに群の有限表示を与えると、非常に高い確率で、その表示から得られる群があるクラスに属する全ての非正曲率距離空間に対する固定点性質をもつ、すなわち、それらの空間に対するすべての等長的作用が固定点をもつことを主張している。今年度に得られた結果は、昨年度に得られた結果の拡張となっており、考えている非正曲率距離空間のクラスがより広くなっている。 また、ある非正曲率距離空間に対する固定点性質が、他の非正曲率距離空間に対する固定点性質を導く様子を明らかにするために、群の空間への作用に対し、harmonic spreadという量を定義した。これにより、曲率が0の平坦な空間(Hilbert空間)に対する固定点性質が、Hilbert空間に非常に近い非正曲率距離空間に対する固定点性質を導く様子は概ね明らかにできたと考えている。しかしながら、例えば、Hilbert空間に対する固定点性質が、樹木(曲率が-∞の非正曲率距離空間)に対する固定点性質を導くという事実をこのharmonic spreadを通して捉えることはできていない。来年度への継続課題となる。
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