当該年度では、Poisson核に関するFisher情報幾何学について考察をすすめた。その結果、交付申請書の研究実施計画の研究目標1についてDamek-Ricci空間のPoisson核が他の階数1の対称空間同様、体積エントロピーとBusemann関数によって表示できることを示すことが、連携研究者との共同研究によってできた。Damek-Ricci空間のLie群的構造が幾何的考察に本質的に働いている。 また目標2に関連して、Poisson核写像が相似的かつ極小である場合のHadamard空間Xの幾何的考察ができ、Xは漸近調和的、すなわち任意のホロ球の平均曲率が一様に一定となることがわかった。(当初の予想は、Xが単に調和的であること。現時点では調和に非常に近い漸近調和的まで結論づけられた。)さらにこのとき、Poisson核はBusemann関数および平均曲率によって表示されることもわかった。証明の手法は直接写像の極小性をもちいるのではなく、写像が調和写像と仮定して結論を導くことができた。 目標2および3に関連した研究については、極小的相似的Poisson核写像をもつ漸近調和的Hadamard空間Xは可視的空間の性質をもち、このときさらに、Xが解析的多様体ならば、Xは階数1となり、さらには測地流がAnosov的となり、Xはある意味で真に負曲率的ということができる。このことから、Damek-Ricci空間は階数1 Hadamard空間でAnosov的測地流をもつことが判明した。 今後の課題としては、上記の条件をみたすHadamard空間Xが調和空間であるための考察にすすむ。そのため、まず測地球の体積増加度、ホロ球の主曲率分布についての考察が不可欠である。現在Damek-Ricci空間について考察を実行中である。
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