研究概要 |
シューベルト・カルキュラスは,もともとGrassmann多様体上で,Schubert多様体たちの交点数を計算する手法であったが,Lie群論などのトポロジー,Young図形やSchur関数などの組合せ論や表現論と密接に関連して,近年大きな拡がりを見せている.報告者はこれまで,代数的位相幾何学の観点からLie群の等質空間,特に連結な複素Lie群Gを,その放物型部分群Pで割って得られる旗多様体G/Pのコホモロジー環について研究を進めてきた.特にPがBorel部分群Bである完全旗多様体G/Bのコホモロジー環について,Wey1群の作用による不変式環を利用した等質空間のコホモロジー環のBorel表示を利用し,Gが例外群E_8の場合に,G/Bの整数係数コホモロジー環を決定した.これにより,すべての連結な複素単純Lie群Gに対して,完全旗多様体G/Bの整数係数コホモロジー環が決定された.論文は,Proc.Japan Acad.86, Ser.A, (2010), 64-68.また,Bernstein-Gelfand-Gelfandによる差分商作用素を利用して旗多様体のコホモロジー環をSchubert類で記述する研究を継続し,E_8の場合にも計算に成功した.さらに,その応用として,GのChow環A(G)を決定するという問題にも取り組み,E_8の場合も含めて完全に決定した.論文は,arXiv : 0709.3702(これは2007年にE_6, E_7に対して得られていた結果にE_8の結果を追加したものである).次に,向き付けられたコンパクトな多様体の符号数に関しては,Hirzebruchの符号数定理を含め,多くの研究がなされているが,具体的な計算は大変複雑となり,わずかな例が知られているに過ぎない.報告者は,複素Grassmann多様体のコホモロジー環のYoung図形による記述をもとに,その符号数が組合せ論的に容易に計算できることを示し,複素Grassmann多様体を含む,cominuscule型の旗多様体(Hermite対称空間)の符号数をすべて決定した.これにより,従来,Atiyah-Bott-Lefschetzの不動点公式等を用いて計算されていた符号数の計算を簡略化することができた.この結果は国際研究集会Bratislava Topology Symposiumにて発表された(2009年9月).
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