研究概要 |
平成23年度における最大の成果は,コピュラの発展に関するものであり,具体的にはその離散化と高次元化に成功したことである.コピュラとは,多くの確率事象の間の非線形な関わり具合を記述するために導入された関数である.定量的リスク管理(Quantitative Risk Management:QRM)においては,多くの事象の間の関係の仕方が問題となるため,コピュラを用いてその非線形な関わりを記述することが一般となっている.ところが既存の多くの研究は静的なものであり,時間を含む研究は,我々が平成21年度に導入したコピュラの発展が例外のひとつであった.しかし,それは拡散方程式の言葉で述べられており,方程式を通して現実の理解に資するという研究目的にはふさわしいものの,案用上計算上はやっかいなものであった.今回の成果は,そのコピュラの発展の離散化に成功し,またさらに高次元にも拡張したことである.これは事象間の関わり方の研究には意義が大きく,QRMにおいても重要なものであると確信する.いくつか現実のデータと比較したところ,自然現象とは相性が良いようである.8月のブルガリアにおける国際会議(Financial and Actuarial Mathematics 2011)において成果を公表した. リスク選好の方程式に関しては,SlovakiaのSevcovic教授との共同研究において,もとの最適化問題が媒介変数に制限を持つ場合に拡張し,対応するHamilton-Jacob-Bellman方程式を導いた.そこからリスク選好の方程式を得た.単純なモデルの場合と異なり,さまざまな種類の進行波解が,実際に存在することを証明した.数値的にも計算可能であり,非線形偏微分方程式の解が現実の理解に役立つものとなった.現在論文査読中である.
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今後の研究の推進方策 |
順調に成果を得ていることもあり,今後の研究課題遂行の方策に特に変更を認めない,特に,現在の研究の進展に照らせば,数理ファイナンスに現れる非線形偏微分方程式の研究に集中する予定である.若手の研究動向への関心を強く持ちつつ,研究課題の遂行に取り組む.
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