研究概要 |
「自然数nに対して,どんなグラフがn頂点の完全グラフKnをマイナーとして持つか.」これは,与えられたグラフのある種の稠密度を測る問題であり,たいへん基本的かつ重要な問いである.本問題は,1943年にHadwigerにより提起され,現在までに,n≦6の場合が解決された.そして,本研究では,この問題について,グラフの曲面への埋め込み可能性を絡めるとどのような事実が導けるかについて考えた.本年度までに,既約三角形分割の完全リストをもとに,クラインの壷,ダブルトーラス,種数3,4の向き付け不可能曲面のK6マイナーを持つ三角形分割を構成的に特徴付けることに成功したのだが,本年度はそれらに関する進展は得られなかった. 本年度は,曲面上のグラフに関するマイナー関係を,閉路の長さの偶奇性について強めた概念である「奇マイナー」に関する研究に取り組んだ.私はこれまで,曲面上の偶埋め込み(各面が偶角形の曲面地図)をしばしば研究対象としてきた.しかしながら,偶埋め込みのマイナー関係をは必ずしも偶埋め込みにはならないので,本研究において偶埋め込みを扱ったとしても,埋め込みの偶性からは特に興味深い結論は得られない.そこで,私は奇マイナーという概念を導入し,その関係により,曲面上の偶埋め込みを分類しようと考えた.したがって,今年度の研究成果として,曲面上の偶埋め込みについて奇マイナーに関する基礎理論を整備し,射影平面の偶埋め込みがK4-奇マイナーを持つための条件と,トーラス上の偶埋め込みがK5-奇マイナーを持つための条件を与えることができた. 一般の曲面上の偶埋め込みの奇マイナーを扱うとき,この関係は曲面上の埋め込みの偶性だけでなく,グラフのサイクルパリティを保存することがわかる.したがって,そのためにはサイクルパリティという代数的不変量のさらなる解析が必要となる.これについては,来年度以降の研究課題としたい.
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