研究概要 |
本研究では,感染症の伝染ダイナミクスに関する新しい非線形差分方程式糸による離散時間モデルの構成とその数理的解析を体系的に行い,その構造(関数形etc.)の合理性[生物現象の構造との論理的な整合性]について体系的に考察することにより,近年,数理生物学の分野として発展著しい,感染症の伝染ダイナミクスに関する数理モデル研究に新しいモデリングのための数理的基盤を提供することを目指している。感染症の伝染ダイナミクスに関しては,離散時間モデルの合理的構造に関する研究は未だ希有である。本年度では,感染症の伝染ダイナミクスに関する基本的な数理モデルとして幅広い応用の基礎になっている常微分方程式系によるKermack-McKendrickモデルを基とする連続時間モデルに対して,確率過程を応用した数理モデリングの手法により,新しい非線形差分方程式系による数理モデルを構成し,その数学的な性質に関する基本的な解析を行った。常微分方程式系による連続時間モデルにおける数理モデリングと同じ個体間相互作用に関する仮定の下に,本研究による数理モデリングの手法で構成された離散時間モデルは,対応する連続時間モデルとは独立に構成されているが,数理的に重要な性質については,定性的に対応すること("dynamical consistency")を示唆する結果が得られている。この点について,今後,さらにより精緻な数理的な解析を進めるとともに,次年度以降は,本年度の研究の結果をより広い感染症の伝染ダイナミクスへの数理モデリングに応用するための数理的な問題点を掘り起こしてゆく予定である。
|