研究概要 |
これまで主として独立同一分布列の場合に研究されてきたメトリック・エントロピー法を,より一般的なマルチンゲールの場合に発展させ,その統計的応用を産み出す研究を行ってきた.昨年度まででメトリック・エントロピー法の理論研究は終了し,本年度は,統計的応用の部分を研究した.成果の一つ目は,拡散過程の適合度検定のための新しい統計量を提案し,その漸近分布を導出するとともに対立仮説のもとでの一致性を証明した.証明の際に,独自の弱収束理論を援用した.漸近分布はブラウン運動のsupであり,解析的に計算が可能であるという利点をもつ.二つ目は,エルゴード的拡散過程の不変分布の分布関数や密度関数の推定量を構成し,その汎関数の意味での漸近正規性と漸近有効性を証明した.そのようなことは連続観測のもとでは可能であることが知られていたが,高頻度データの基づいて構成したのは世界初であった.三つ目は,カーネル型の密度推定量が,L2空間の中で弱収束するのではないかという重要な予想を,否定的に解決した.四つ目は,変化点の有無をノンパラメトリックな枠組みで検定するための統計量をランクに基づいて構成し,その性質を詳しく調べた.特に,漸近的に分布不変であるだけでなく,サンプルサイズを止めても分布不変であることが判明した.また,変化点が複数ある場合にも対応できる.これらの理由により,実用的に大きな意味をもつ.
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