研究概要 |
本研究では,空間内の領域の境界の一部(時間変動を許す)の形状が未知であるとき,形状が既知の境界の一部分(以下,観測面)で得られる温度(温度を表す放物型方程式の解の境界値)データから未知形状を推定する逆問題を,考察の対象としている。放物型方程式の境界条件は,未知境界部分ではディリクレ,観測面ではノイマンの混合型境界条件とする。昨年度は研究協力者の土谷正明氏との共同研究により,未知形状が観測データから一意に同定できるための十分条件について結果を得て公表した。本年度はそれを踏まえて,未知形状部分を推定するアルゴリズムの設計について以下の方針の下で考察した。(このうち,1),2)は交付申請書に記載した方針である。また,2),3)は1)を含む一般的な設定で考える。) 1)リプシッツ領域と区間の直積として得られる柱状領域の下面が未知の変形を起こし,その下面をひとつの関数で表すことができる場合は,適当な変換によりその形状関数を放物型方程式の係数に組み込むことが出来る。このような場合に,未知形状を制御として,確率制御理論に基づく未知形状推定アルゴリズムを構築すること。 2)必ずしも未知形状が一意に決まらない場合について,全解探索アルゴリズムを用いて,実験的結果を得ること。 3)放物型方程式の弱解の確率論的表示(いわゆるFeynman-Kac型公式)を用いた未知形状推定アルゴリズムを構築すること。(本研究の設定では一般に強解や古典解の存在は期待できない。) 上記のうち,1),2)については,有効なアルゴリズムを得るために解決すべき点が明瞭になったと思われるが,それらを解決するには至らなかった。従って現在は主に3)の方針で考察を行っている。具体的には,a)弱解の確率論的表示を得ること,b)アルゴリズムを構築すること,c)アルゴリズムの収束性を示すこと,を検討中である。土谷氏と共同で研究を行い,a)については観測面まで込めた表現を得,b)については一応の見通しを得て細部を検討している段階である.
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