研究概要 |
1.初期データを与えて波を発生させ,その波を物体に当て散乱させる.散乱された波を物体から離れた有限の場所で観測し,得られた有限観測時間におけるデータから物体の位置あるいは形状についての情報を抽出をする問題は典型的な逆問題である.しかしこれをそのまま厳密にやろうとする試みは,実はあまり進展していない.例えばLax-Phillipsの散乱理論では散乱行列あるいは散乱核が観測データとされるが,それは物体から無限に遠く離れた場所で観測されしたがって観測時間も無限大になる.今回の研究では,波の支配方程式が波動方程式で与えられ,有限観測時間におけるデータのみしか使用せず,したがって有限の場所での観測をした場合について,囲い込み法を指導原理として考察した.その結果,物体を囲む,ある既知の閉曲面の外部に勝手に与えた点と物体との距離が,適当な一つの初期データによって発生させた波を,粗く言って十分長くその曲面上で観測すると,計算できることがわかった.この方法は物体内に波が入ることができしかもその速さが物体外部と不連続的に変わっている場合にも同様な結果をもたらすこともわかり,時間情報の有用性を示している.これらの結果は,熱方程式に対する初期境界値逆問題に取り組む過程で得られたものであるが,一つの初期データに対するデータから一つの意味のある情報が得られるというのが,大きな特徴である. 2.Vekua変換を用いてMittag-Leffler関数からそれと同じような漸近挙動を持つ大きなパラメタを持つHelmholtz方程式の特殊解を構成し,Helmholtz方程式で支配される音響的に硬い物体の平面波による散乱の逆問題へ応用し,囲い込み法を拡張した.
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