研究概要 |
1.非均質,等方的な熱伝導体からなる物体中に埋め込まれた,未知の非均質,非等方的な熱伝導体からなる介在物についての情報を,物体表面における有限観測時間における無限個の熱流束および温度の組すなわちNeumann-to-Dirichlet写像から抽出する逆問題を考察することにより囲い込み法の数学的枠組みを具体的に与えるとともにその応用を与えた.詳しくは,前年度において導入した時間変数に関するある積分変換を施すことにより,大きなパラメタに依存するある非同次楕円型方程式に対する境界値逆問題に帰着させる.次に,この大きなパラメタに依存し,介在物には独立なある同次変形Helmholtz方程式の特別な解の存在を仮定する.この解には,大きなパラメタに関するいくつかの増大条件が課され,特に,介在物上での,大きなパラメタに関する上と下からのある増大条件が課されている.最後に,観測時間を適当に大きくし,帰着された境界値問題に対するNeumann-to-Dirichlet写像と上の特別な解から指示関数を構成し,その大きなパラメタに関する漸近挙動を調べると,介在物と特別な解に関係したある量を抽出できる.これが枠組みである.したがってすべてはこの特別な解の構成の問題に帰着されるのであるが,物体が非均質,等方的である場合,十分に大きなパラメタをとればその構成ができるという知見を得た.得られた特別な解は,大きなパラメタと,我々が仮想slownessと呼ぶ,もうひとつのパラメタを入れた複素ヴェクトルから決まる相関数を持つ複素指数関数解の摂動であるが,仮想slownessを先に大きくとり固定するということで構成できるというのが発見である. 2.ひとつの点源入射波による,Helmholtz方程式を支配方程式とする,音響的に硬い物体による音波の散乱の逆問題の2次元版への囲い込み法の応用について考察し,点源が物体から十分に離れていればその凸包が抽出できることを証明した.
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