研究概要 |
本研究課題の目的は,逆問題から生ずる非線形積分変換の基礎理論を確立し,対応する逆問題自身の解決および積分変換を用いて得られる数学理論の構築を行うことにある. 本年度は,非線形自励微分方程式の解の振幅に周期を対応させる関数(周期対応関数)から復元力を大域的に定める問題について,前年度の研究成果を踏まえて詳細に研究し,与えられた周期対応関数を実現する復元力を周期対応関数と正の振幅に負の振幅を対応させる関数(対合)から構成する再構成法を確立するとともに,復元力を明示的に表す公式を導出した.この明示公式は周期対応関数および対合に復元力を対応させる変換がどのようなものであるかを簡潔に記述している.さらに,この明示公式を,等時性の問題に適用し,すべての周期運動の周期が定数となる(すなわち,等時である)ような復元力を大域的に決定した.これらの研究成果は,非線形自励微分方程式の解の振幅に周期を対応させる関数(周期対応関数)から復元力を大域的に定める問題から生ずる非線形積分変換の逆変換の構造を明らかにするものであり,この問題に対しては,本研究課題の目的は完全に達せられた.また,これにより逆問題の研究領域において20世紀後半から懸案であった未解決問題に終止符が打たれた. 本年度は,新たに,相対論的量子力学の逆散乱問題と逆散乱法に関し研究代表者自身が確立したポテンシャルの特徴づけを移流拡散方程式の移流項決定の問題(移流拡散逆問題)に応用し,拡散係数が一定の場合に対応する移流項が実際に存在するための拡散データの条件を求めた.その結果,拡散係数が一定であるという仮定はあまりにも制限的であり,移流拡散逆問題にとっては,拡散係数も未知であるとする問題設定が適切であり,したがって,この逆問題から生ずる非線形積分変換はその設定のもとで論じられるべきであるとの知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
自励系微分方程式の非線形項を大域分岐から定める逆問題は,周期と振幅の関係から復元力を定める逆周期問題の一般的数理構造を一般的に記述することを可能にする問題であることが明らかとなったことを受けて,本年度はこの逆問題の一般的な解決を行い,大域分岐と非線形項の関係を明らかにした.研究成果発表も行い,論文作成も完了したことから,すべて計画通りに進捗しているため,上記区分の評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度にあたる来年度は,相対論的量子力学の逆散乱問題と逆散乱法の応用として,移流拡散方程式の移流項決定の問題を,拡散係数も未知であるとする問題設定のもとで研究する.また,この問題研究を発展させ,相対論的量子力学の逆散乱問題の数理構造を明確にし,本研究課題の目的の一つとして掲げた相対論的量子力学の逆散乱変換の果たす役割と汎用性を審らかにする.
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