非線形発展方程式の理論と方法を応用して時間依存制約条件下の双曲-放物型変分不等式に対する特異摂動問題を研究し、特異極限の存在と収束のオーダーを導くことに成功した。この成果は1970年代のJ.L.Lionsによる時間に依存しない制約条件下の研究を時間依存制約条件の場合に拡張したものであり、これまで研究されてきたさまざまな具体的双曲-放物型変分不等式問題(双曲-放物型Stefan問題など)への応用を含む抽象的一般論を構築したという意義を有する。また、極限問題の解の構成という観点からみると、この成果によって1986年の仙葉隆氏による放物型変分不等式の研究とは異なる方法からのアプローチが確立され、解の正則性に関して新しい情報を得ることが可能になった。論文はJ.Math.Anal.に掲載された。この研究成果に関して平成21年度日本数学秋季総合分科会の特別講演で報告を行った。 次にPenrose-Fife型相転移ダイナミクスモデルに関して温度にDirichlet条件を課した変分不等式問題を研究し特異摂動(粘性消滅)の方法による解の構成に成功した。ここでは温度のDirichlet条件とPenrose-Fife型の退化した熱流との兼ね合いから生ずる困難があったが、非線形発展方程式論の方法とエネルギー等式とを組み合わせることにより近似解の一様評価を得ることができた。論文はNonlinear Anal.に掲載された。 さらに複数の秩序度を持つ相転移ダイナミクスモデルに関して、時間依存制約条件を課した変分不等式問題に適用可能な抽象的理論を構築することに成功した。具体的応用としてFremondによる形状記憶合金モデルなど幅広い現象のモデルを統一的に扱うことが可能になった。論文はJ.Evol.Equ.に掲載された。
|