本研究では多項式と超越整関数,両者の力学系的性質を個別に研究すると同時に,双方向的研究,即ち多項式の結果から超越整関数の結果を得ること,更にはその逆に,超越整関数に関する結果から多項式に関する結果を導くことを目指している.連携研究者の協力の下,本年度得た主な成果(抜粋)は次のとおりである: (I)超越整関数の力学系について:与えられた多項式 P に対して,超越整関数 f で f のある円板への制限が擬多項式写像になり,それが P と擬等角共役になるようなものを擬等角手術の方法によって構成した.更にこのような f でいくらでも遅い増大度を持つようなものが構成できることを示した.またこの一般原理の応用として次の2つを示した:(1)超越整関数 f で与えられた種類と個数(ただし有限個)のFatou成分(ただしBaker領域と遊走領域を除く)を持つようなものを構成した.これは「与えられた種類と個数(無限個も可)のFatou成分を持つ超越整関数が存在するか」という問題の部分的解決を与える.(2)超越整関数でCremer点を持ち,しかもJulia集合が局所連結になるようなものを構成した.多項式の場合はCremer点を持てばJulia集合が局所連結にはならないことが知られているので,この例は多項式の場合には起こらない現象を表す新たな一例となる. (II)多項式の力学系について:与えられた写像(多項式に限らず,一般に有理写像でよい)に対してそれに付随する木(tree)とその上の区分線形な写像を定義し,これに関して次のことを示した:(1)ある条件をもつ木と区分線形写像に対してはそれを実現する有理写像が存在すること.(2)ある配置をもつ多重連結Fatou成分をもつ有理写像には弱反発不動点が存在すること.
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