研究概要 |
本年度は非線形Schrodinger方程式の適切性,特に初期条件に関する連続的依存性について研究した。非線形Schrodinger方程式の適切性については過去30年あまりの間に数多くの研究がなされており,ほぼ完全に解決されたと考えられていた。しかしながら,非線形項が冪乗型の場合に限って言うならば,初期データに対する解の連続的依存性を弱めた形でしか適切性が証明されていないケースが多かった。これは,非線形項が限られた滑らかさしか持たないために,適切性を証明しようとする関数空間において,ふたつの解の差を評価することが技術的に困難であるためである。そこで,解を構成する関数空間にやや弱いメトリックを導入して解の一意存在を証明する,と言う手法がとられてきたが,その代償として,初期データを与える空間の位相での初期データに対する連続依存性を放棄することになる(例えば,Cazenave & Weissler, Nonlinear Anals 14,p.807を参照)。本年度の研究において筆者はこの問題について部分的ながら肯定的な解決を与えた。すなわち,冪乗型の非線形Schrodinger方程式を分数次のSobolev空間H^s(0<s<1)において考えた場合,非線形項の冪が劣臨界であれば,初期条件に対する解の連続依存性がH^sの位相で成立することを証明した。同様の結果はs>1の場合にも成立すると考えられる。また,非線形波動方程式やKlein-Gordon方程式に対しても類似の結果が期待される。これらについては来年度の課題としたい。
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