まずパウリ作用素の閾値エネルギー(この揚合はゼロ・エネルギー)について調べた。ゼロ・エネルギーが固有値になる場合に、対応する固有関数の無限遠方における漸近挙動を調べた。また、ゼロ・エネルギーが共鳴状態を持つかどうかを調べた。これらの成果はパウリ作用素に対しては未だ知られていなかった性質である。パウリ作用素のゼロ・エネルギーはパウリ作用素のスペクトル的性質を解明する上で決定的な役割を果たすものであり、本研究の持つ意義は大きい。次にワイル・ディラック作用のゼロ・モードについて研究した。ワイル・ディラック作用素のゼロ・モードが存在することは知られていたが、実はゼロ・モードとある種の可解な多項式とが密接な関係を持つことを初めて示した。しかも本研究で得られた可解多項式の中には非常に複雑かつ次数の非常に高いものが含まれており、よく知られた定理「5次以上の代数方程式の解の公式が存在しない」と照らし合わせると、大変興味深い成果であると考えている。また、ワイル・ディラック作用素にゼロ・モードの関わりで、ディラック・ソボレフ不等式、ディラック・ハーディ不等式を考察し、可積分関数が作る空間でのみ成り立つ新しい結果を導いた。この成果は従来想定されていなかった型の不等式を導いた点で、重要な成果であると考えている。
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