研究課題
スカラー・ポテンシャルを持つマスレス・ディラック作用素のスペクトル的性質を調べた。可能な限り一般的で緩い条件をスカラー・ポテンシャルに課して、マスレス・ディラック作用素のスペクトルが常に実軸全体と一致することを示した。また、スカラー・ポテンシャルの無限遠方における極限値のみがマスレス・ディラック作用素の埋め込まれた固有値になりうることを示した。実際に、埋め込まれたゼロ固有値を持つようなスカラー・ポテンシャを空間3次元の場合に構成することに成功した。空間2次元の場合には、埋め込まれたゼロ・レゾナンスを持つようなスカラー・ポテンシャを構成することにも成功した。相対論的シュレディンガー作用素に関しては、ゼロ・レゾナンスが存在し得ないこと、またゼロ固有値を持つようなスカラー・ポテンシャルは稀にしか存在しないことを示した。これらの結果を利用して、ある程度速く減衰するスカラー・ポテンシャルを持つ場合に、波動作用素の低エネルギー漸近挙動について伸縮群を用いて調べた。さらに散乱行列の低エネルギー極限を調べた。副産物として、自由相対論的シュレディンガー作用素が生成するユニタリ群の積分核の表示が得られた。研究成果の発表に関しては、5月に国際研究集会「作用素論と境界値問題」(パリ大学南校)で講演、9月にはドイツゲッチンゲン大学で、またスウェーデンのミッタク・レフラー研究所、ルント大学でそれぞれ講演した。10月にはデンマークのオーフス大学、コペンハーゲン大学で講演した。3月には日本数学会年会において、1時間の特別講演(招待講演)を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
スカラー・ポテンシャルを持つマスレス・ディラック作用素の埋め込まれた固有値、レゾナンスに関する成果が得られたのは想定外であること、また、相対論的シュレディンガー作用素に関して低エネルギー漸近挙動まで調べられたのも想定外であるため。
スカラー・ポテンシャルを持つマスレス・ディラック作用素に関して、周期ポテンシャルが扱えるように理論を進化させるのが望ましい。スペクトルの絶対連続性に関する研究は興味ある問題として調べる試みをすべきであると考えている。相対論的シュレディンガー作用素に関しては、仮定を改良できればと考えている。現時点での仮定は十分に一般的なものであるが、明示的でない仮定が一つ含まれている。この仮定は明示的に述べるのが困難なものであることが広く認識されているが、インプリシットな面を極力減らすのが望ましい。
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