研究概要 |
交付申請書に述べた以下の3つの課題を研究した。それぞれについて報告する。 1. ホモクリニック軌道が生成するレゾナンスの虚部の下からの評価: 古典力学系の捕捉された軌道の集合が一つの双曲型不動点とそれに付随するホモクリニック軌道からなる場合に、対応するシュレディンガー作用素のレゾナンスの虚部を下から評価する問題で、特に不動点が等方的で、かつホモクリニック軌道上outgoingな安定多様体とincomingな安定多様体の接空間が一致する場合、レゾナンスの虚部はh/log hの定数倍以上であることをある条件の下で証明した。 2. シュタルク効果をもつシュレディンガー作用素のスペクトルシフト関数の漸近公式: シュタルク効果を持ち、非捕捉的なシュレディンガー作用素の摂動によって定義されるスペクトルシフト関数の微分が、準古典極限において、超関数の意味と、さらに各点収束の意味の双方で完全な漸近展開をもつことを示した。これはシュタルク効果がない場合のRobert-Tamuraの1984年の結果の類似であるが、従来使われてきた時間発展作用素の積分核の解析を使わず、レゾルベントの解析のみで証明できたことに大きな意義がある。この方法は、連立のシュレディンガー作用素など、時間発展作用素の大局的解析が難しい場合にも有効である。 3. 連立の一次元シュレディンガー方程式のポテンシャル交差点におけるストークス現象の解明: 2つのポテンシャルの交差点でのWKB解の接続の公式を与え、それを用いて量子化学における前期解離をモデルとする作用素のレゾナンスの分布を調べる研究であるが、レゾナンスの虚部は準古典パラメータの分数幕であろうとの予想を立て、Andre Martinez,渡部拓也と現在も共同研究を続けている。
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